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最高裁判所第三小法廷 昭和40年(オ)821号 判決 1967年7月25日

上告人

宮脇幾次

右訴訟代理人

元原利文

被上告人

興和産業株式会社

代表者

宮脇峯次

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人元原利文の上告理由第一、二点について。

株主総会における議事の方式については、法律に特別の規定がないから、定款に別段を定めをしていないかぎり、総会の討議の過程を通じて、その最終段階にいたつて、議案に対する各株主の確定的な賛否の態度がおのずから明らかとなつて、その議案に対する賛成の議決権数がその総会の決議に必要な議決権数に達したことが明白になつた以上、その時において表決が成立したものと解するのが相当であり、したがつて、議長が改めてその議案について株主に対し挙手・起立・投票など採決の手続をとらなかつたとしても、その総会の決議が成立しないということはいえない。

そして、原判決がその挙示の証拠により適法に認定した事実関係、とくに本件総会の最終段階において議事の対象となつている営業譲渡案について、桑原政義ら三名が賛成であることが明らかになつたという事実関係のもとにおいては、本件総会の決議が成立し、決議が不存在とはいえないとした原判決の判断は、肯認しえないわけではない。

なお、論旨中には、議案に対する賛否が何人に対して明らかになつたかが明示されていない旨をいう部分もあるが、原判決の判文によれば、右総会に出席した株主全員がこれを了知していた趣旨であることは明らかである。したがつて、この点の論旨も失当である。

結局原判決には、所論のような違法があるとはいいがたく、所論は、採用しがたい。

同第三点について。

原判決の認定したところによると、所論の四名のほかに、その余の株主全員に対して、口頭で、招集通知書を受けた者に対するのと同旨の通知をしたというのであり、右認定は、挙示の証拠により、肯認することができる。したがつて、本件総会の会議の目的たる事項について、その余の株主に対しても、通知がされたものということができるから、この点についての判断を欠く旨の所論は採用しがたい。

同第四点前段部分について。

営業の譲渡に関する会社の株主がこれを譲り受ける会社の代表取締役であるからといつて、ただちにその株主をもつて、その決議について、商法二三九条五項にいう特別の利害関係を有する者と解することはできない。

ところで、原判決の確定したところによると、被上告会社の株主である木谷年弘が本件営業譲渡の譲受会社の代表取締役であるというにすぎないのであるから、同人をもつて、本件決議についていわゆる特別利害関係人ということができないことは、前記説示によつて明らかである。したがつて、同人が加わつてした本件決議に違法は存しない。

原判決の判文中には、これと異なる見解を前提とするかのような説示部分もあるが、本件決議自体は有効である旨を判示しているから、その結論において正当というべきである。

結局、所論は、採用しがたい。

同第四点後段部分について。

所論の点についての上告人の主張を排斥した原判決の判断は相当である。

原判決には、所論の違法はない。

同第五点について。

原判決の判示するところによると、本件決議の対象となつた営業の譲渡は、第二会社たる三星燃寸株式会社を譲受人とすることを前提とし、かつ、譲渡の条件その他の細目の交渉を代表取締役に一任する旨の決議が成立したというのであるから、本件決議は当然には無効とはいえず、これと同旨に出た原判決は相当である。

所論は採用しがたい。

同第六点について。

原判決がその挙示証拠により認定した事実関係によれば、本件決議をもつて議決権の濫用とはいえないとした原判決の判断は、正当である。

原判決中には所論のような違法はなく、所論は、採用しがたい。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 柏原語六 田中二郎 下村三郎 松本正雄)

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